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2009/05/17 (Sun) 17:10

*哉太視点SS*



青いだけの空なんて、なんか虚しい。
やっぱ、空には星がないとな・・・・

芝生の青臭い匂いを感じながら、そんなことを考えた。

手を伸ばしたところで、空に届くはずがない。
そんなことは分かってる。
でも、目の前に広がるそれが思ったよりもずっと遠くて。
改めて、届かないと思い知らされる。


そう言えば・・・と、傍らに置いてあったデジカメ越しに、空を覗いてみる。
当たり前だけど、余計に遠い。
シャッターを押して、淡い青を小さな画面に固定した。


「カメラで撮ったのもいいんだけどな・・・・」

思った通り。
写真にしたところで、空との距離は変わらない。
一部とは言え、手の中に収まっているのに。
どうしてこんなに遠いんだよ。


何度やったところで、結果は変わらないけど。
試しに、もう一度カメラを構えた。


するとそのとき、

「かーなーたっ!」

小さな画面に突然、見慣れた顔が現れた。

「ッ・・・!な、何だよ。恋霄かよ。・・・ったく、驚かせんなよな・・・・」

飛び起きて、改めて俺の名前を呼んだ顔を見上げる。
恋霄は腰に手を当てて、少しふくれっ面でまた口を開いた。


「"何だよ"じゃないでしょ?こんな所で授業サボって・・・」

またケンカでもしてるんじゃないかって、心配したんだから。
そう続けて、まるで子供に言い聞かせるように俺を見下ろす。


「俺は静かに昼寝してただけだ。んな顔すんなよ」

余計に可愛くなくなっちまうぞ?
いつものようにからかえば、


「哉太!"余計に"って何よ、"余計に"って!」

いつもの反応が返ってきて、飽きもしないやり取りを繰り返す。

「もう・・・・ケンカしてないなら、よかったけど。ちゃんと授業に出なきゃダメだよ?出席日数足りなくなっても、もう知らないんだからね」
「大丈夫だって、ちゃーんと計算してるから」


軽く返事をすれば、本当に知らないんだから、と呆れ気味の声が返ってきた。
恋霄の言わんとしてることは分かるけど、何だかその反応に悔しさを覚える。


「・・・んなことより、何か用でもあったんじゃねーの?」

今日の授業は、もうとっくに終わってる。
それなのにわざわざ俺を探しに来たってことは、何か用事があるはずだ。
話題を逸らすように伸びをしながら訊ねると。
そうだった、と何かを思い出したような呟きが聞こえた。


「羊君と小腹が空いたねって話してたら、錫也が食堂借りて3時のおやつに何か作ってくれるって言うの。だから、哉太も一緒に食べないかなって思って」
「マジでか!?」
「うん!だから、早く行こう?」


俺の声に頷いた恋霄は、芝生に座りこんでいる俺に向けて手を伸ばした。

分かってる。
差し出された手に他意がないことくらい。
俺を立ち上がらせるためだけのものだってことくらい。


でも、情けないことに。
それに触れるのを躊躇う自分がいた。
手を伸ばすことをためらう自分が、確かにいた。


「・・・哉太っ、早くってば!」

恋霄が痺れを切らせたらしく、少し口を尖らせて俺の腕を掴んだ。

「ぅお!お、オイ・・・!」

そんな力じゃ、無理に決まってるのに。
俺を立ち上がらせようと、小さな手がグッと腕を引っ張る。


「・・・ったく・・・痛ぇよ、バカ力」

グイグイと引っ張られ、俺は少しだけ重かった腰を上げる。

「バカ力とは何よ!大体、哉太が早くしないのが悪いんでしょ?」

ホントは、ちっとも痛くなんてなかった。
でも、恋霄に掴まれた部分が妙に熱くなったような気がして。
それを意識しないようにして、ついつい憎まれ口を叩いた。


恋霄はと言うと、俺の言葉で頬を膨らませて。
フンっと顔を背けて、先に食堂の方へと歩き出した。


1歩、また1歩と恋霄が離れてく。
さっきまで目の前にいた、恋霄が。


「っ・・・・か、哉太・・・?」

振り向いた恋霄が、驚いたように目をパチパチと瞬かせる。
でも、驚いたのは俺の方だ。
気付けば俺は恋霄を追いかけていて、その手は恋霄の手首を掴んでいた。


まるで、恋霄が俺から離れていかないように。
俺たちの距離を確かなものにするように。


「あ、っと・・・コレは、その・・・・・・お、お前が、俺の前を歩いてるからだ!!」

自分でも、訳の分からないことを言ったと思う。
だけど、「"恋霄が手の届かないところに行っちまうんじゃないか"って不安に思った」。
・・・なんて、まさか言えるはずない。
ましてや、自覚できるくらい赤くなった顔なんて見せられる訳がない。
だから、


「な・・・何よそれ!哉太ってば、訳分かんない!」

そんな声を背中で受け止めて、足早に食堂に向かう。

手を伸ばせば、ちゃんと届く。
掴まえられる。
ちゃんと近くにいるんだ。


「・・・・・あ゛ー、くそっ!」

たったそれだけのことが確かめられて、酷く安心してる自分が格好悪い。
それを何とか誤魔化したくて、手に持っていたデジカメに視線を落とす。


「・・・コレって・・・・」

小さな画面に映るのは、さっき俺を呼びに来た時の恋霄の顔。
突然覗き込まれて、驚いた拍子にシャッターを押していたらしい。

「ぷっ・・・・何だよ、この顔」

授業をサボった俺に、頬を膨らませて怒っているんだろうけど。
全然、覇気がない。
どちらかと言うと、間抜けな顔。


「ったく、可愛い顔しとけっつったのによぉ・・・」

まぁ、不意打ちだったから仕方ないか、と苦笑が浮かぶ。


いくら写真にして、手の中に収まってても。
それと俺の距離は変わらない。
でも、アイツは傍にいる。
手を伸ばせば届く距離に、恋霄はいるんだ。

そうは思いつつも、この写真を消す気にはなれない。
コレで、恋霄をからかってやるのも面白そうだから。
別に、恋霄と過ごした時間を一瞬でさえ忘れたくないとか、そんなんじゃない。

なんて言い訳を心の中で繰り返して。
俺は保存ボタンを少し乱暴に押した。




end.


てなわけで、哉太視点のSSでした。
哉太エンディング記念・・・・って訳じゃないけど。
大いにねつ造です、駄文です、ああそうですとも。

コレはね、哉太のエンディングを見る前に思いついたネタ。
空に向かってデジカメ構えてたトコに、恋霄が哉太を呼びに来て。
覗き込まれた拍子にシャッター押して、写真撮っちゃった。
ってトコが書きたかったんだけどね。
他にも書きたいコト増えて、思ってたよりも長くなった。

こんな感じのSSが、気まぐれに増えていく・・・予定。
ホントは、名前変換したかったんだけどね。
暁終恋霄って名前も、そのために考えたからね。
でも、ブログじゃそれは無理だから。
SSって形でしばらく書いていきます。

今のところ、他にもネタはあるんだけど。
いつ増えるかは分かんない・・・・




・・・・・・・こっそり、感想なんてものを待っていたりなんかしたりして。
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